心臓血管外科このページを印刷する - 心臓血管外科

心臓血管外科は、下記の認定施設です。
  • 日本外科学会外科専門医制度修練指定施設
  • 心臓血管外科専門医認定機構基幹施設
  • 日本ステントグラフト実施基準管理委員会実施施設(腹部大動脈瘤)
  • 経カテーテル的大動脈弁置換術実施施設
  • 下肢静脈瘤血管内焼灼術実施・管理委員会実施施設
当院での主な下記の治療について説明します。
  1. 心臓弁膜症手術
  2. 冠動脈バイパス術
  3. 胸部・腹部大動脈瘤手術
  4. 末梢血管手術
  5. 下肢静脈瘤手術
 

1.心臓弁膜症

a.僧帽弁閉鎖不全症(Mitral regurgitation: MR)

 心臓弁膜症の一つである僧帽弁閉鎖不全症(Mitral regurgitation: MR)とは社会の高齢化に伴って増加している心臓弁膜症の一つです。僧帽弁逆流の原因は様々ですが、最も頻度が多いのは退行性病変による弁逸脱であります。僧帽弁逆流の原因疾患で多い順に挙げますと、1)退行性病変による弁逸脱、2)感染性心内膜炎、3)リウマチ性僧帽弁逆流、4)先天性その他、となりますが、心筋梗塞あるいは心筋症によって左心室の拡大、左室収縮の異常によって僧帽弁逆流を生じてくる虚血性僧帽弁逆流も心不全の原因として注目されております。 僧帽弁は大きな前尖と後尖、そしてその両者をつなぐ交連部の弁尖に分けられます。後尖は解剖学的位置からP1 P2 P3の3つに分けられ、それらに相当する前尖部分をA1 A2 A3と呼んでおります。交連部はAC(C1)、PC(C2)と呼んでおり、僧帽弁の構造は弁輪、弁葉、腱索、乳頭筋、左心室壁で構成されており、この構造が病気により破壊されると弁の閉鎖がうまくいかなくなり僧帽弁に逆流を生じてきます(図1)。
 退行性病変、弁逸脱では弁葉と乳頭筋をつなぐ腱索が切れるか、伸びてしまって弁の閉鎖がうまくいかなくなる病気です(図2)。弁逸脱の約半数(50~60%)は後尖の逸脱であり、30~40%は前尖、前後尖両方の逸脱です。逸脱の部位と逆流の程度(重症度)は心エコー図検査によって診断ができます。逆流が軽度(30%未満逆流)あるいは中等度(30%以上50%未満逆流)であれば心臓に負担はかかりませんので普通の生活をされて全く心配ありません。しかしながら、高度(50%以上逆流)の逆流と診断されますと左心室、左心房に逆流する血液量の負担(容量負荷)がかかり、左室の拡大、左室機能の低下、左心房の拡大、不整脈(心房細動)と病気が進行して、息切れなどの症状が出る頃は心臓機能の障害が進んでいて外科治療後の回復に大きな影響を与えます。この病気も日常生活での活動能力の低下を伴う症状と弁膜症の重症度は異なります。症状が出てくるまでに心機能の低下が進行しますので外科治療のタイミングが極めて重要であります。
 僧帽弁逆流によって息切れや呼吸困難を生じた場合は利尿剤などの投薬で症状は改善しますが、長期的な成績から見て有効な内科的治療は報告されておりません。したがって、高度僧帽弁逆流の場合は外科治療のタイミングとその手術方法が大きな問題となります。  手術方法には僧帽弁の逆流を止めることを目的に、1)僧帽弁形成術、2)僧帽弁置換術に分けられます(図3)。さらに僧帽弁置換術は機械弁あるいは生体弁による人工弁置換術に分けられます。僧帽弁形成術は人工弁置換術と比べて技術的なトレーニングが必要ですが、手術死亡率の低下、左心室機能の回復、手術後合併症の回避と多くの点で優れた術式であると報告されておりますので、僧帽弁逆流に対する手術方法でまず考えられるのは僧帽弁形成術であり、僧帽弁逆流の90%以上で可能であります。当院での僧帽弁形成成功率は98%です。手術後の弁関連合併症の発生頻度が形成術により大きく改善します。したがって現在の治療ガイドラインにも掲げてありますが、いかなる僧帽弁逆流も技術的に形成術が可能であれば形成術が推奨されるとなっております。形成術の困難な僧帽弁疾患が10%以下の患者さまでありますので、こうした場合は機械弁あるいは生体弁を用いた人工弁置換術となります。
 通常の手術は胸骨正中切開にて行われますが、当院では平成26年4月から導入してきた右小肋間開胸による僧帽弁形成術は平成29年9月の3年6か月までに、27例に施行してきました。この分野に関しても鹿児島県内ではほとんど他施設では行われておりません。従来の25~30 cm近い胸の真ん中を切開する胸骨正中切開に比べて皮膚切開8 cmという右小肋間開胸切開で低侵襲手術することで、胸骨感染のリスクもなく、美容的にも傷が目立ちません。さらに早期回復、早期退院、早期社会復帰を得ることができております。しかし、手技の難度は高くなるので適応は慎重に判断し、手術の質を落とさないように細心の注意を払っています。今後も適応拡大をはかり、その症例数を伸ばしていく所存であります(図4)。

 

(図1)僧帽弁の解剖

 

(図2)僧帽弁逸脱

 

(図3)a)僧帽弁形成術

 

b)僧帽弁置換術(人工弁)

 

(図4)a)低侵襲僧帽弁手術(右小肋間開胸による)

通常の胸骨正中切開(25~30 cm切開)

右小肋間開胸(8 cm切開)

 

b)右小肋間開胸創部写真(8 cm切開)

 

c)術野写真(写真左側が頭側)

 

b.大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis:AS)

大動脈弁疾患に対する標準的術式は、人工弁による大動脈弁置換術である。人工弁は耐久性に優れるが、抗凝固療法が必須である機械弁と、耐久性に劣る(10~15年での構造劣化)ものの、抗凝固療法は短期間で済む生体弁に分類することができる。どちらも大動脈弁輪に縫合、固定するためのステント構造を有しており、これが大動脈弁輪の可動性を阻害するなどし、術後の大動脈弁口面積の減少や大動脈弁位圧格差の増大、さらには患者さま-人工弁ミスマッチ (patient prosthesis mismatch:PPM)につながる症例も経験する。また、体格が小さく狭小弁輪の症例では最小の人工弁でも弁置換が困難な症例もあり、侵襲的操作である弁輪拡大やステントレス弁を使用した大動脈基部置換術を行わざるを得ないこともある。近年では、僧帽弁治療に始まった抗凝固療法が不要で、術後のQOL(quality of life)の改善が見込まれる、自己弁を温存する形成術が盛んに行われる傾向にあり、大動脈弁疾患に対しても、弁形成,弁再建術が行われる機会が増加している。しかしながら、大動脈弁形成、再建術施行が可能な条件として、大動脈弁尖の性状が保たれていることが重要で、近年の高齢化社会に伴い、増加している弁尖に石灰化を認める大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis: AS)の症例では開胸による人工弁置換が必要で標準術式であります(図5a)。
 平成29年3月から当院手術室にハイブリッド手術室(X線透視を兼ね備えたクリーン室)を増設し、その稼働を開始しました。このハイブリッド手術室増設稼働の最大の目的は経カテーテル的大動脈弁置換術(Transcatheter aortic valve implantation: TAVI)の実施でした。そのTAVI関連学会事務局の視察を平成29年4月14日に受け、5月10日にTAVI実施施設に鹿児島県内初、認可されました。これまで80歳以上の高齢者で開胸手術による大動脈弁置換術では非常に危険性を伴う方には大変メリットの大きい方法です。そして、平成29年6月29日には鹿児島県内初のTAVIが当院で行われたことは今後の鹿児島県内のハイリスク高齢者大動脈弁狭窄症の治療貢献には大変意義があります。さらにその後も順調にTAVI症例数を伸ばし、現在まで良好な治療成績を収めております。TAVI導入には他県に比べてやや遅れましたが、この間に小柄な体格の日本人に合った小口径のシステムが登場し、カテーテル弁にも漏れ防止スカートが追加された改良型のSAPIEN 3というデバイスを初めから使用できたことは幸運であったと思います。今後もますます、症例数を伸ばすことが期待できそうです(図2)。また、平成29年5月26日には日本だけならず、世界でもその第一人者である東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科 尾崎重之教授を当院に招聘し、重症大動脈弁狭窄症の方に対して鹿児島県内初となる自己心膜を用いた大動脈弁再建術(AV Neo-cuspidization)を行い、成功いたしました。これは今まで人工弁置換を受けていた患者さまにとっては人工弁置換を要しない、術後抗凝固治療が不要の画期的な手術手技であり、大変メリットの大きい手術であります。その後は当科スタッフのみによる大動脈弁再建術を8月29日、9月5日に1例ずつ行い、非常に良好な結果を得ております。今後もその適応患者さまを増やして、症例数を重ねていき、鹿児島県内の患者さまにその恩恵を受けていただけるようにしていく所存であります(図5b)。

 

(図5)a)外科的大動脈弁置換術(SAVR)

 

b) 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI or TAVR)

 

c.大動脈弁閉鎖不全症(Aortic regurgitation: AR)

 大動脈弁閉鎖不全症(Aortic regurgitation: AR)は近年、人工弁置換術に変わって人工弁使用を回避する大動脈弁形成術が進歩普及してきている。大動脈弁形成術の適応は、大動脈弁尖の性状が保たれている大動脈弁閉鎖不全症ということになる。大動脈弁閉鎖不全症はその弁尖運動の所見により3つに分類することができる。すなわち、弁尖の動きには異常は認められないType I、弁尖の逸脱(prolapse)を認めるType II、弁尖の運動制限を認めるType IIIである。Type Iでは、弁尖は大動脈弁輪の動脈側に位置しており、弁尖の運動自体には異常は認められないものである。大動脈弁逆流が発生する原因としては、弁尖の接合部(coaptation zone)の 短縮や弁尖の穿孔(perforation)が挙げられる。接合面(coaptation zone)の短縮は,大動脈弁輪拡張症(annuloaortic ectasia :AAE)などに伴う弁輪部の拡大、バルサルバ洞の拡大や急性大動脈解離や上行大動脈瘤に伴うST junctionの拡大などが原因となる。弁尖の穿孔は、主に感染性心内膜炎による弁尖の破壊が原因となることが多い。Type IIでは弁尖が拡張期に心室側に逸脱することで発生する。弁尖の接合が得られず、非逸脱弁尖方向に変位した逆流ジェットを認める。原因としては、交連部の損傷や弁尖の亀裂、弁尖自由縁の延長などが挙げられる。Type IIIは大動脈弁尖の1 枚,2枚あるいは全ての運動が制限されることで、弁尖同士の接合が障害されるものである。原因としては、石灰化によるものやリウマチ性のものが挙げられる。大動脈弁狭窄症を伴うことも多い。

 

1.AAEに対する自己大動脈弁温存基部置換術

 AAEに対する手術として従来の人工弁を使用した大動脈基部置換術(Bentall operation)に代わる術式として、自己弁尖を温存して大動脈基部を置換する術式が行われている。この術式は、弁輪上から人工血管置換を行い、バルサルバ洞や弁輪部の運動制限が少ないRemodeling法と弁下部から弁輪部を覆うように人工血管置換術を行い、大動脈弁輪拡張に対して縫縮効果が望まれるReimplantation法が挙げられる。当院でも大動脈弁輪拡張症(Annuloaortic ectasia:AAE)や aortic root aneurysmに合併した大動脈弁閉鎖不全症(Aortic regurgitation: AR)に対して従来、人工弁と人工血管のcomposite graftを用いた大動脈基部置換(Bentall手術)を行っており、その手術成績も良好でした。近年、自己大動脈弁温存手術(valve-sparing operation),特にReimplantation (David手術)が注目されており、当科でも平成25年3月から現在まで適応のある症例に対して積極的にReimplantation (David V)手術に挑戦しています。患者さまにとっては人工弁フリー、ワーファリンフリーの生活が術後待っており、患者さまのQOL向上、さらに人工弁関連合併症の回避、予後の改善に貢献する手術であると認識している。鹿児島県内では特に当センターは僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術と同じくこの手術に力を注いでいる。平成25年3月から平成29年9月までに当科でAAEや aortic root aneurysmに合併したARに対してReimplantation (David V)手術を16例に施行し、手術死亡なく、大動脈弁逆流制御良好と良好な成績をあげています(図6)

 

(図6)a)自己大動脈弁温存基部置換術

b) 人工弁を使用した大動脈基部置換術(Bentall手術)

 

2.急性大動脈解離,上行大動脈瘤による大動脈弁閉鎖不全に対する手術

 大動脈解離や動脈瘤に伴う上行大動脈、ST junctionの拡大は、大動脈弁尖の接合不全を引き起こし、大動脈弁逆流の原因となる。このような症例では、大動脈弁尖自体に異常を認めなければ、大動脈弁交連部をつり上げ固定、あるいはST junction以上の人工血管置換にて大動脈弁逆流の改善を認める。

 

3.弁尖穿孔(感染性心内膜炎)に対する形成術

 感染性心内膜炎による大動脈弁尖の破壊によっても、大動脈弁逆流は発生する。弁尖の破壊が大動脈弁腹に限局しており、弁尖自由縁の性状が保たれていて、弁輪部への感染波及が認められなければ、弁尖穿孔部のパッチ閉鎖にて対応することも可能である。

 

4.弁尖逸脱に対する形成術

 大動脈弁尖の逸脱による大動脈弁逆流に対する弁形成術は、いくつかのテクニックが報告されている。弁腹をひだ状に縫合し,弁尖全体を大動脈側に引き上げるcentral plication、弁尖の自由縁に連続で針糸をかけて、それを両側の大動脈交連部方向に牽引することで、弁尖自由縁を引き上げるcusp resuspensionまたは free margin reinforcement、また、僧帽弁尖の逸脱に対する形成術と同様のテクニックを用いて、弁尖逸脱部を切除縫合するtriangular resection などである(図7)。

図7)大動脈弁形成術

 

5.弁尖の運動制限を認める大動脈弁逆流に対する形成術

 リウマチ性変化や石灰化を伴う大動脈弁逆流に対しても、人工物を使用しない弁形成術が行われている。リウマチ性変化に伴う交連部の癒合を認める症例では、弁尖の変化が少なければ、交連部の切開にて弁尖の可動性改善が期待される。以前には,弁尖の肥厚に対して、弁腹をスライス状に切除するshavingや石灰化弁尖に対する石灰化除去(decalcification)も行われていたが、術後の再発が高率に認められることから、今日では積極的には行われていない。運動制限のある弁尖の性状によっては、弁尖の延長が行われることもある。延長に使用する素材としては、グルタールアルデハイド処理された自己心膜が一般的である 。

 

6.二尖弁に対する形成術

 大動脈二尖弁は、1~2%に発生する先天的に弁尖が2枚である心疾患であるが、比較的若年から大動脈弁逆流あるいは狭窄症を呈する。二尖弁では交連部間距離に対して弁尖自由縁長が短いために、弁尖自由縁が正常に比較して下方(左室方向)に下がり、弁尖が左室方向に逸脱することで開放される特徴がある。そのために大動脈弁閉鎖時にも弁尖の逸脱があると逆流が生じることとなる。逸脱のコントロールには前述したように、central plication や cusp resuspensionなどのテクニックが使用される。また、大動脈基部置換術と同時に交連部を上方に引き上げて固定する術式も行われている。縫線(raphe)のある二尖弁の場合には癒合した弁尖を切開し、三尖弁化する術式も行われているが、rapheの交連部は正常な交連部に比較して低く位置するために、逆流のコントロールや遠隔期の再発などに問題があることも懸念される。

 

7.自己心膜を使用した大動脈弁再建術(AV Neo-cuspidization)

 大動脈弁疾患に対する治療として、2007年より自己心膜を使用した大動脈弁再建術が施行されている。この術式は大動脈弁尖を完全に切除し、グルタールアルデハイド処理した自己心膜から作成した弁尖を大動脈弁輪に直接、縫着する術式である。この術式は大動脈弁閉鎖不全症だけでなく、大動脈弁狭窄症などの大動脈弁疾患に対して幅広く適応することが可能で、二尖弁、単尖弁、四尖弁にも応用することができる。また、弁尖の性状が不良なAAE、感染性心内膜炎、大動脈弁置換術後の症例に対しても施行可能である。人工弁を使用せず、自己心膜を使用しているために術後の抗凝固療法は不要で、弁輪部に直接弁尖を縫合することで、より大きな弁口面積が確保できる特徴がある。そのために、狭小弁輪症例に対しても弁輪拡大などの侵襲的な処置を行うことなく手術が施行できる利点がある。当院でも平成29年5月26日には日本だけならず、世界でもその生みの親、第一人者である東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科 尾崎重之教授を当院に招聘し、重症大動脈弁狭窄症の方に対して鹿児島県内初となる自己心膜を用いた大動脈弁再建術(AV Neo-cuspidization)を行い、成功いたしました。これは今まで人工弁置換を受けていた患者さまにとっては人工弁置換を要しない、術後抗凝固治療が不要の画期的な手術手技であり、大変メリットの大きい手術であります。その後は当科スタッフのみによる大動脈弁再建術を8月29日、9月5日に1例ずつ行い、非常に良好な結果を得ております。今後もその適応患者さまを増やして、症例数を重ねていき、鹿児島県内の患者さまにその恩恵を受けていただけるようにしていく所存であります(図8)。

 

(図8)a)自己心膜を使用した大動脈弁再建術 (AV Neo-cuspidization)

 

b)自己心膜大動脈弁再建後の写真

 

 

2.冠動脈バイパス術

 狭心症、心筋梗塞による冠動脈バイパス術は経カテーテル治療(Percutaneous coronary intervention: PCI)の飛躍的な進歩、発達により減少しています。しかし、減少した中でさらにその治療対象患者さまは多くの合併症を有したますますハイリスク患者となってきております。欧米に比較して心拍動下冠動脈バイパス術(Off pump coronary arterial bypass grafting: OPCAB)が盛んに施行されてきた本邦ではありますが、ここに来て改めて人工心肺使用下の冠動脈バイパス術(Conventional coronary arterial bypass grafting: CCAB)の長期成績が見直されてきております。今後はそのようなハイリスク患者でも治療成績を落とすことなく、質の向上を目指し、静脈グラフトより長期開存性が得られる動脈グラフトを多用した術式を選択して、その有用性と意義を高めていくことになると思います(図9)。

 

(図9)両側内胸動脈グラフトを用いた心拍動下冠動脈バイパス術後3D-CT

 

 

3.胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤手術

 胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤の領域は依然、開胸や開腹を必要とする人工血管置換術が標準術式であります。しかし、現在では瘤形態やその位置によっては開胸や開腹を要しない胸部大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術(Thoracic endovascular aortic repair: TEVAR)、腹部大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術(Endovascular aortic repair: EVAR)が可能であります。すでに当院でも導入しており、現在はその適応を拡大しています。胸部大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術の登場により従来の開胸下の人工血管置換術症例は減少していますが、呼吸機能障害などの多くのリスクを持つ患者さまや高齢者に対しては大変有用な治療手段となっています。血管内治療の登場で胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤症例は全国的にみても増加の一途をたどっていますが、この領域に関してもハイブリッド手術室の稼働により手技の安全性も高まりさらに増加していくものと思われます(図10)。

 

(図10)a)ステントグラフト内挿術

b) オープンステントグラフト内挿と併用した人工血管置換術

 

 

4.末梢血管手術

 閉塞性動脈硬化症(ASO)は、動脈硬化が基盤となって粥腫形成、血栓ができ血管が詰まるという発症経過を示します。特にASOを有する患者さまにおける心筋虚血有病率は55%にも及び、重症のASO患者さまの生命予後は不良であるといわれています。ASOに糖尿病が合併すると心血管死がさらに増加することも分かってきました。これまでシロスタゾールやスタチンなどの内服に加え、腸骨動脈領域を中心に末梢動脈インターペンション(PTA)が行われております。さらには最新のステント進歩により大腿動脈以下のPTA治療も増えてきております。PTAとは冠動脈と同じように、骨盤部や下肢の末梢血管の動脈硬化による狭窄・閉塞部を細いカテーテルに装着したバルーン(風船)やステント(金属の筒状のもの)を使用して、病変部を拡張させることにより血流を改善させる治療です。そのため、外科的に人工血管や自家静脈を使用した下肢バイパス術の症例数は減少の一途ですが、PTA不可能な症例にはまだまだ必要で有効な手段であります(図11)。

 

(図11)下肢バイパス術

 

 

5.下肢静脈瘤手術

 下肢静脈瘤は以前の下肢静脈抜去術に変わり、小さな傷穴一つで済む血管内レーザー焼灼術が主流となってきています。当院もすでに下肢静脈瘤血管内焼灼術実施・管理委員会が認定する実施施設となっており、積極的に下肢静脈瘤レーザー治療術を行っております(図12)。

(図12)下肢静脈瘤レーザー治療

 

 

【診療実績】

 2016年4月から2017年3月までの最新の年間手術症例数を示します。
 開心術246例(心臓弁膜症98例、冠動脈バイパス術 65例(内、心拍動下冠動脈バイパス術 20例)、胸部大動脈瘤 64例、その他19例)、腹部大動脈瘤 110例、末梢血管 50例、下肢静脈瘤 63例で総数 469例です。

 

実績

手術件数

冠動脈バイパス術 (1991.1~2014.12)

予定手術

単独

1,522例

合併含む

1,774例

緊急手術

単独

272例

合併含む

311例

 

弁膜疾患 (1991.1~2014.12)

大動脈弁手術

626例

僧帽弁手術

534例

大動脈弁+僧帽弁手術

181例

 

大動脈疾患 (2001.1~2014.12)

胸部大動脈瘤

上行/弓部

490例

胸腹部

31例

破裂

22例

大動脈解離

A型

153例

B型

5例

 

腹部大動脈瘤 (1991.1~2014.12)

予定手術

1,030例

緊急手術

113例

80歳以上大動脈弁置換術症例数の推移