心臓弁膜症についてこのページを印刷する - 心臓弁膜症について

 平成29年3月から当院手術室にハイブリッド手術室(X線透視を兼ね備えたクリーン室)を増設し、その稼働を開始しました。このハイブリッド手術室増設稼働の最大の目的は経カテーテル的大動脈弁置換術(Transcatheter aortic valve implantation: TAVI)の実施でした。そのTAVI関連学会事務局の視察を平成29年4月14日に受け、5月10日にTAVI実施施設に鹿児島県内初、認可されました。これまで80歳以上の高齢者で開胸手術による大動脈弁置換術では非常に危険性を伴う方には大変メリットの大きい方法です。そして、平成29年6月29日には鹿児島県内初のTAVIが当院で行われたことは今後の鹿児島県内のハイリスク高齢者大動脈弁狭窄症の治療貢献には大変意義があります。さらにその後も順調にTAVI症例数を伸ばし、現在まで良好な治療成績を収めております。TAVI導入には他県に比べてやや遅れましたが、この間に小柄な体格の日本人に合った小口径のシステムが登場し、カテーテル弁にも漏れ防止スカートが追加された改良型のSAPIEN 3というデバイスを初めから使用できたことは幸運であったと思います。今後もますます、症例数を伸ばすことが期待できそうです。(図1)

 

(図1)

経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI or TAVR)

a)経大腿動脈アプローチ

b)経心尖部アプローチ

 

  また、心臓弁膜症の一つである僧帽弁閉鎖不全症には平成26年4月から導入してきた右小肋間開胸による僧帽弁形成術は平成29年9月の3年6か月までに、27例に施行してきました。この分野に関しても鹿児島県内ではほとんど他施設では行われておりません。従来の25~30 cm近い胸の真ん中を切開する胸骨正中切開に比べて皮膚切開8 cmという右小肋間開胸切開で低侵襲手術することで、胸骨感染のリスクもなく、美容的にも傷が目立ちません。さらに早期回復、早期退院、早期社会復帰を得ることができております。しかし、手技の難度は高くなるので適応は慎重に判断し、手術の質を落とさないように細心の注意を払っています。今後も適応拡大をはかり、その症例数を伸ばしていく所存であります(図2)。

 

(図2)

a)低侵襲僧帽弁手術(右小肋間開胸による)

通常の胸骨正中切開(25~30 cm切開)

右小肋間開胸(8 cm切開)

b)右小肋間開胸創部写真(8 cm切開)

c)術野写真(写真左側が頭側)

 

また、平成29年5月26日には日本だけならず、世界でもその生みの親、第一人者である東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科 尾崎重之教授を当院に招聘し、重症大動脈弁狭窄症の方に対して鹿児島県内初となる自己心膜を用いた大動脈弁再建術(AV Neo-cuspidization)を行い、成功いたしました。これは今まで人工弁置換を受けていた患者さまにとっては人工弁置換を要しない、術後抗凝固治療が不要の画期的な手術手技であり、大変メリットの大きい手術であります。その後は当科スタッフのみによる大動脈弁再建術を8月29日、9月5日に1例ずつ行い、非常に良好な結果を得ております。今後もその適応患者を増やして、症例数を重ねていき、鹿児島県内の患者さまにその恩恵を受けていただけるようにしていく所存であります(図3)。

 

 (図3)

a)自己心膜を使用した大動脈弁再建術 (AV Neo-cuspidization)

b)自己心膜大動脈弁再建後の写真