独立行政法人 国立病院機構 鹿児島医療センター

脳血栓回収療法

脳血管内治療とは、カテーテルという柔らかい素材で作った細い管のようなものを用いて、血管の中から脳内の血管病変を治療するものです。従来の開頭による手術では治療困難であった様々な疾患が、この新しい方法によって治療可能となっています。脳血管内治療は、日本脳神経血管内治療学会で認定された専門医(指導医)によって行われます。

脳血管内治療の中でも、当院で盛んに行っているのは脳血栓回収療法です。これは、大きな血栓という血のかたまりによって引き起こされた脳梗塞に対する再開通治療です。脳梗塞を発症してからあまり時間が経っていない方のみがこの治療を受けることができます。方法としては、カテーテルを足の付け根などの太い動脈から脳内にまで挿入して、詰まった血栓を回収道具(ステントリトリーバーや血栓吸引カテーテル)を用いて回収し、閉塞した血管を再開通させようとするものです。従来のtPAという血のかたまりを溶かす点滴治療に加えて、血栓回収療法を追加で行うと、明らかに患者様の後遺症を少なくできることが、国際的な共同研究で証明されました。その結果、本邦の脳卒中診療ガイドライン20152019年追補)でも、本治療を行うことが強く推奨されています。

では、脳梗塞を起こしてからどの程度の時間まで、この治療は受けられるのでしょうか? 従来は、脳梗塞の症状が出ていない大丈夫であった時間から8時間までの患者様に対してのみこの治療は行われていましたが、症状と画像検査に基づく治療適応判定を行い、脳梗塞所見が症状にくらべて少ない場合、脳血流が比較的保たれている場合など、条件が整えば脳血栓回収療法が有効な場合があることがわかってきました。これを受けて、最新の脳卒中治療ガイドラインでは、脳梗塞の症状が出ていない大丈夫であった時間から24時間以内であれば、血栓回収療法を検討することが勧められており、ひと昔前だと治療を受けられなかった人たちも、血栓回収療法を受けることができるようになってきています。

なお、治療時間は1分でもできる限り早く再開通させたほど、症状がよくなる可能性は高くなります。そのため発見から病院に搬送するまでの時間や、到着から再開通させるためまでの時間を少しでも短くするため、搬送システムの構築や院内体制の整備にチーム一丸となって努力しています。院内の取り組みの一環として、脳血管内治療をあらゆる職種の方に知ってもらうために、ポスターを用いた広報活動なども取り組んでいます。

本治療によって8090%の血管が再開通できるようになり、3ヶ月後に自立した生活が得られる方は約4070%と報告されており、これまでの治療法に比べ、格段によくなっています。当院での再開通率も88%と海外の報告と同等の成績であり、質の高い治療を行っています。なお、閉塞血管の部位や脳梗塞の重症度、また患者様の年齢や合併症によって回復の程度は様々です。

脳血栓回収療法の方法
(1) ステント型の血栓回収カテーテル(ステントリトリーバー)による血栓回収

細いワイヤーの先端部に柔らかいステント(金網状の機器)を取り付けたもので、血栓を捕まえて回収します。現在4種類のステントリトリーバーが使用可能です。

(2) 血栓回収吸引カテーテルによる血栓回収
血栓吸引カテーテルを血栓がある位置まで進め、閉塞部位にある血栓を掃除機のように吸って回収します。ステントリトリーバーと組み合わせて用いるもこともあります。

脳血栓回収療法の合併症

血栓回収療法はカテーテルを用いた手術であり、稀ながら治療の心配事(リスク)もいくつかあります。
(1)
脳出血

すでに脳梗塞に陥った脳組織に再開通をさせることによって、“脳出血”を起こしてしまうことがあります。小さな出血なら症状の悪化はありませんが、大出血を起こせば半身麻痺などの重大な後遺症を残したり、生命に危険性が及ぶこともあります。

(2) 脳梗塞の悪化(脳腫脹・脳浮腫)

再開通が得られても、脳梗塞がすでに進行していた時には、急激に脳が腫れて(脳腫脹)、障害が進行することもあります。その場合には、頭蓋骨を外して脳の圧を下げる手術が必要なこともあります。

(3) 新たな脳梗塞の発生

カテーテルの操作中に、血管内壁に付着したプラーク(コレステロールの固まり)や血栓がはがれ、血流に乗って脳内の血管に流れて閉塞させ、新たな脳梗塞を生じることもあります。その結果、半身麻痺や言語障害などの重大な後遺症が残ったり、生命に危険が及ぶこともあります。

(4) 血管損傷

カテーテルやガイドワイヤーなどの機材により血管を損傷してしまい(急性解離や血管破裂)により、脳内出血やくも膜下出血をおこす危険性があります。

(5) その他

治療道具を出し入れする動脈(穿刺した動脈)周りの血腫形成、造影剤やその他の薬剤によるアレルギー反応、肝障害や腎障害などもあります。

 

どんな治療にも心配事(リスク)はつきものですが、当院では安全第一を念頭において、治療に取り組んでいきます。

 

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