2020年12月3日鹿児島県初の自己拡張型人工弁での経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)施行しました。
70歳未満では1%未満、80歳以上になりますと、7%程度の頻度と言われる大動脈弁狭窄症ですが、無症状の方から、胸痛・息切れ・失神など様々な症状を認め、症状出現からの進行が早く、大変予後の悪い疾患となっています。その大動脈弁狭窄症に対する治療戦略は、2020年弁膜症ガイドラインの改定により変貌しつつあります。
2020年、日本循環器病学会でのガイドラインが改訂され、より低リスクの患者さまへの治療適応の方向性が示されました。大まかな目安として、75歳未満でSAVR、80歳以上で、TAVIとなっています。当院では、それぞれの患者さまに合った治療方法を多職種によるハートチームカンファレンスで検討した上で、決定していきます。
経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI: transcatheter aortic valve implantation)は、重症大動脈弁狭窄症の患者さまに対して、カテーテルを使って心臓に弁を留置する新しい治療法です。
ここ鹿児島医療センターでは2017年6月27日鹿児島県で初のTAVIを開始して以来、2020年12月3日に至るまで260症例になりました。
その人工弁に関しては、バルーン拡張型のTAVI弁(Sapien)を使用していますが、自己弁の石灰化が強い方や、弁が小さい方は、弁輪部破裂の危険性、逆流の残存、また、低心機能に対する高頻脈ペーシングによる術中血圧低下など残された課題もあります。
そのような方々に対し、自己拡張型TAVI弁(Evolute)が検討されます。
自己拡張型特徴は、高頻脈ペーシングを必要とせず、また人工弁位が自己弁より高い位置になりますので、バルーン拡張型に比べ、頻拍による心負担を軽減でき、狭小弁輪の方にはより有効な弁口面積を確保することができます。
また、バルーン拡張による、弁輪部の破裂、大動脈解離のリスクを減少できます。
弱点は、人工弁の高さにあり、人工弁留置後の冠動脈へのアプローチが困難な場合があります。
また、症例によりますが、すでに人工弁(生体弁)を入れておられる患者様にも、TAVI弁留置可能となる予定です。
それぞれの患者さまに適した、人工弁の選択が可能になったことはとても有効なことと考えています。
入院期間は10日から2週間です。術後3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後、24ヶ月後と定期検診をさせていただいております。
バルーン拡張型 自己拡張型
TAVIは無事に終了すれば、低侵襲で高齢者や多くの合併症を有する虚弱患者さまには大変喜ばれる治療方法でありますが、一方合併症が出現した場合は、非常に重篤な状況に陥ります。TAVIにおける術後30日死亡率は2%未満とされ、開胸が必要な合併症の可能性は1%未満、その場合の死亡率は50%と報告されています。当院でも開胸手術、開心手術までいたった症例、さらに30日以内の死亡例も経験しております。
術前から大動脈弁狭窄症について、そしてTAVIを含めた手術について、できるだけ多くのことを、時間をかけて丁寧に患者さまに説明し、悩みながら治療方針を決定してきました。
今後もより安全に、より良い治療を患者さまに提供できるようハートチーム、さらに病院一丸となって努力させていただきます。
最後になりましたが、悩みながら治療をうけていただいた患者さまそして家族の皆様、そして大切な患者さまをご紹介いただいた開業医ならびに関連病院の先生方に感謝申しあげます。
文責:第二循環器内科医長 平峯 聖久