独立行政法人 国立病院機構 鹿児島医療センター

脳卒中診療における話題をピックアップ

脳卒中診療に関しましての特集です。先日、2014年から通算して血栓回収療法が200件を超えたことを報告いたしました。今回は最近の脳卒中診療における最新の話題をピックアップさせて頂きます。

 

~エフィエント(プラスグレル)の脳領域への認可~

すでに循環器領域では心筋梗塞の治療において認可が通っているエフィエントですが、2021年12月から脳領域においても使用できるようになりました。具体的には、発症7日目以降の非心原性脳梗塞(ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞)に対して使用が可能です。同じ作用機序を示すクロピドグレルは肝臓で代謝を受け効果を発揮しますが、CYP2C19の遺伝子多型によって、抗血小板作用を十分出せない人が約10-20%存在すると言われています。エフィエントは複数のCYPで活性化されることから、抗血小板作用が減弱しないことが示されており、脳梗塞の再発予防に期待されています。後方支援の先生方におかれましては、内服薬の継続を含めお願いすることが増えると思いますが、何卒宜しくお願い致します。

 

~脳卒中相談窓口の設置~

脳卒中の診療体制が施設によって大きく変わってきている中、鹿児島医療センターでは「脳卒中相談窓口」というものを設置することになりました。これは医師、認定看護師、社会福祉士、介護支援専門員、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などが協力して、脳卒中の予防から発症後の生活まで広い範囲で患者さまをサポートできるようにする取り組みです。例えば、リハビリ病院を退院後にいざ自宅で生活することになったが、麻痺が残っており買い物に一人でいけない、周りのサポートがなく身の回りのことができない、金銭面で困っており通院や内服継続ができない、などといった悩みなどが対象となります。些細なことでも構いませんので、①脳卒中の医療や介護について、②脳卒中の治療と予防、後遺症について、③脳卒中発症後の転院や、退院後の生活について、など困っている患者さまがおりましたら、気軽にご相談ください。

 

COVID-19感染が虚血性脳卒中に与える影響について~

スペイン・カタルーニャ地方における前向き観察型他施設コホート研究で2021年にStrokeに発表された論文です。COVID-19に罹患した急性期脳梗塞患者は、非感染群と比較して死亡率が有意に高かった(39.3% vs. 16.1%)と報告されました。標準治療やリハ介入の遅れ、廃用の進行、ウイルスそのものの生体内への影響などが関係している可能性が示唆されています。

Marti-Fabregas J, et al.  Stroke 2021; 52: 3908-3917

 

~アテローム血栓性脳梗塞における中性脂肪の影響~

2022年にNeurologyに発表された日本から出たエビデンスです。脳梗塞治療において高コレステロール(LDL)血症の併存は再発リスクを高めることが知られており、急性期からのスタチン系薬剤の使用が必須化した時代となりました。しかし高トリグリセリド(中性脂肪)血症に関してはこれまで脳卒中に対する役割が良いとも悪いともわかっていませんでした。Hoshinoらは虚血性脳卒中の症例に対して前向き登録研究を行い、高トリグリセリド血症の存在はアテローム血栓性脳梗塞の発症、再発と関連することを世界で初めて前向き研究で報告しました。今後、高トリグリセリド血症に対する視点を大きく変えなければならないことに気づかされた報告でした。

Hoshino T, et al.  Neurology 2022; 98: e1660-e1669

~1-2-3-4-Day rule~

非弁膜症性心房細動(NVAF)に対する非ビタミンK拮抗抗凝固薬(DOAC)の使用は脳梗塞発症、再発予防の標準治療となりました。しかし、急性期においてはいつから、どのタイミングで、どのような病態でDOACを開始すべきか明確な答えはわかっていませんでした。その答えとなる論文がStrokeで2022年に報告され、1-2-3-4-Day ruleと名付けられています。つまり、一過性脳虚血発作では発症1日以内、軽症では2日以内、中等症では3日以内、重症でも頭蓋内出血がなければ4日以内に開始した方が良いと述べられています。DOACの急性期の使用法に関して新しい知見となり得る報告です。

Kimura S, et al.  Stroke 2022; 53: 1540-1549

以上、一部ではありますが最近の脳卒中診療におけるトピックを少しだけ紹介させて頂きました。背景が異なる各々の患者さまにどのような治療法が適切であるのか、患者さまにとって最適な治療が何なのか、悩みながら質のいい医療を提供できるようにスタッフ一丸となって努力していきたいと思います。

文責:脳血管内科 濱田 祐樹

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