リードレスペースメーカ植込みの選択肢が増えました
リードレスペースメーカは徐脈に対する画期的な治療法の一つで、電極とジェネレータを一体にして、経静脈的に心腔内に留置するデバイスです。ペースメーカのトラブルの多くはリードに起因しており、これまでポケット部の感染等などの問題もあり、リード抜去の必要時には危険を伴う場合がありました。
▲本邦で使用可能なリードレスペースメーカ
▲心臓内のリードレスペースメーカ植込み模式図
(2024年2月現在)
左:VVIタイプ 右:VVIタイプ・VDDタイプ
2017年9月に本邦において、リードレスペースメーカ植込みが保険償還され、心室ペーシング(VVI/VVIR)設定のみに限定されるペーシングモードでした。MicraTMAVが2021年11月より使用できるようになり、加速度センサーを利用して心房の収縮を感知し、心房に同期して心室ペーシング、VDDペーシングが可能となりました。Aveir VRリードレスペースメーカは2023年3月より使用可能になりました。これまでのMicraは心筋内にタインドで植込みしていましたが、Aveirはスクリュー型です。Aveirは慢性期に抜去でき、電池寿命も長くなっています。さらに、MicraTMAV2/VR2の次世代製品が使用できるようになっており、シングルチャンバ型(VVIR)であるMicraVR2は電池寿命が36%延長(中央値16.7年)し、Micra AV2と同様デリバリーシステムの改良がなされています。
これまでは、徐脈性心房細動や高齢者に対して用いられる傾向がありましたが、若年者における経静脈的ペースメーカ植込みには感染リスクへの暴露が長期化すること、高い活動性がリード損傷のリスクを増大させるという懸念があることより、若年患者におけるリードレスペースメーカの有用性が再考されつつあります。
下記に2024年3月8日発行された2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療よりリードレスペースメーカ植込みに関する推奨とエビデンスレベルを提示します。
リードレスペースメーカは経静脈ペースメーカと比較してリード・ポケット関連合併症が少ないものの、心筋穿孔・心嚢液貯留が1~2%に認められ、85歳以上、BMI<20kg/m2、女性、心不全、陳旧性心筋梗塞、肺高血圧、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、透析がリスク増強因子とされています。当院の患者はほとんどがリスクの高い症例ばかりですが、細心の注意を払いながら施行し、リードレスペースメーカ植込みは、当院では2017年9月14日に第1例目を開始し、2024年3月で400例を達成しました。
リードレスペースメーカは、大腿静脈からアプローチし、デバイスのみを右室内に挿入するペースメーカです。 なんといってもリードがないこと、ポケットの形成が必要ないことがメリットです。
- 心房へのリード留置が困難またはハイリスクあるいは効果的と認められない場合
- 透析患者で、静脈閉塞の既往や、動静脈シャントの温存・感染のリスクがある患者
- デバイス感染でリード抜去後
- 認知症があり、安静が保てない
- 高度フレイルや寝たきりの状態などの患者
- 期待余命1年未満
などで植込みを敬遠していた患者さんもいるかと思います。
上記のような患者にリードレスペースメーカを当日植込み、翌日には施設にお返しできる患者も経験していますのでご相談ください。
参考文献:2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療
文責:循環器内科主任部長 薗田正浩