心房細動に対する新しいカテーテル治療の導入 ~パルスフィールドアブレーション(PFA)~
不整脈の治療、経皮的カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)は1980年台に始まり、現在不整脈治療の主たる方法となっています。心房細動に対するカテーテルアブレーションは、1998年に肺静脈起源の異常興奮が心房細動の契機となることが発表され、現在、カテーテルアブレーション症例の約8割が心房細動に対する治療となっています。
治療は確実な肺静脈隔離術が重要で、高周波(RF)をエネルギー源とした熱による焼灼で肺静脈を囲むようにポイントをつなげて肺静脈を隔離する方法に加え、バルーン(冷凍、ホット、レーザー)を使用した方法が開発されてきました。カテーテルの進歩により治療時間が短くなり、周辺臓器(食道、横隔神経、肺、冠動脈など)の障害などのリスクは軽減していますが、依然として残っています。

心房細動のカテーテル治療をより安全に
今回使用できるようになった、新しいカテーテル治療、パルスフィールドアブレーション(PFA)はより周辺臓器への障害が少なく、短時間で肺静脈隔離ができることが期待され、臨床使用が可能となりました。
PFAの原理は、高電圧の超短時間パルス電流を加えることで、細胞膜に小さな孔が形成され、細胞膜の恒常性が失われることで、細胞死が誘導され、組織の不可逆的な障害を起こすことができます。従来の方法と異なり、組織温度の上昇を伴わず細胞障害を誘導するため、熱傷や熱伝導による隣接臓器障害のリスクが低いことが特徴です。
PFAの大きな利点は、組織により感受性が異なるため、エネルギー等をコントロールすることで、心筋組織を選択的に傷害できます。そのため、周囲組織への直接的な影響が少なく、合併症が減ることが考えられ、急速にその使用が広まってきています。他のカテーテル治療に比べ、溶血による急性腎機能障害が報告されていますが、パルス出力回数を増加させないことで、予防できます。貧血や腎機能障害のある患者さんには注意が必要です。
2024年秋から、日本でも臨床使用が認可され、当院でも2025年6月より心房細動治療にPFAを導入しています。当院では発作性心房細動を対象に、肺静脈隔離術のみでの治療を検討している症例は、安全性と手技時間の短縮を期待して、PFAを優先的に使用するようにしています。現時点では、PFA症例による合併症は認めていませんが、今後、治療導入を増やし、より多くの患者さまを治療できるよう、鋭意努力していきます。
(文責:不整脈治療科主任部長 塗木 徳人)


