独立行政法人 国立病院機構 鹿児島医療センター

「鹿医セン便り Vol.192」

2022年4月1日(金)

脳血栓回収200例  

 

 はじめて私自身が血栓回収療法に触れたのは2014年でした。この患者さまは発症から間もない大きな血管の閉塞で来院し、血栓回収療法を行ったことで劇的に症状が改善しました。2022年現在も元気に外来に通われています。ひと昔前であれば、このような結果は想像できなかったことでしょう。その当時は、点滴で詰まった血栓を溶かす血栓溶解療法(rt-PA静注療法)が主流であり、脳梗塞起こしたての患者さまにどれだけ早く迅速に投与ができるかが、患者さまの症状を軽くする唯一の治療法でした。この血栓溶解療法は2005年から国内で行われるようになり、脳卒中診療の歴史を変える大きなパラダイムシフトとなりました。ただし、血栓溶解療法を受けた患者さまが全例詰まった血栓が溶けて、劇的に症状が改善するというわけではなく、中には効果がないばかりか、逆に全身的な出血の病気が起きて、むしろ症状が悪くなってしまう患者さまが少ないながらいることも事実でした。

 そんな中、はじめて血栓回収療法が日本で認可されたのは2010年でした。今とは機器の種類が多少異なりますが、これは現在も主流である血管内治療により血管を再開通させる方法です。血管内治療とは、足の付け根にある太い動脈に針を刺し、そこからカテーテルという細い管を脳内の血管まで挿入して、詰まった血栓を取り除く(血栓回収)治療です。血栓回収療法の有効性が確立したのが2014年であり、鹿児島医療センターも同じ年に実施開始となりました。その頃まだ初学者であった私は、血栓回収療法を初めて目にし、治療を受けた患者さまの症状が劇的に改善する姿を何度も目撃し、衝撃と感銘を受けました。この出来事が、私自身が血管内治療専門医を目指そうと思ったきっかけとなりました。

 当時はエビデンス(治療の道しるべとなるデータ)が不足する中で、何が正解なのか手探りの中診療を進めていくことも多くありました。しかし、保険診療開始から8年が経過した今は、医療の発展により血栓回収療法を受けられる患者さま適応の幅が広くなり、患者さまにベストな治療が行える条件なども分かってきています。そんな中、鹿児島医療センターは2022年1月に血栓回収療法が通算200例目を迎えることができました。これは、多職種からなる脳卒中診療チームが一丸となって「患者さまを一人でも多く良くしたい!」という前向きな気持ちと類まれなる努力がなければ成し得なかった数字です。今後は超高齢化社会による高齢者の人口の増加や更なる適応の拡大などにより、血栓回収療法も増えていくものと予想されます。背景が異なる各々の患者さまにどのような治療法が適切であるのか、臨床の現場ではまだまだ解決しなければならない問題は山積みですが、これからも患者さまにとってベストな治療が何なのか、悩みながら質のいい医療を提供できるように日々邁進していきたいと思います。

(文責:脳血管内科医師 濱田 祐樹)

 

 

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